RISC-V CPUをAIサーバーのホストに使う動きが、ソフトウェア実証の段階へ進みました。SiFiveとAMDは2026年9月15日、RISC-Vベースのデータセンター開発機「BigSky」でAMD ROCm 10を動かし、生成AIモデルを推論するデモを公開しています。

今回のポイントは、RISC-V CPUだけでAI推論を処理したことではありません。SiFiveのP870-D CPUがシステムを制御し、AMD Radeon AI PRO R9700が推論処理を受け持つCPU・GPU構成を成立させた点にあります。x86やArm以外のホストCPUからAMDのGPUソフトウェア環境を利用できる可能性が見えてきました。

一方、発表は量産サーバーや正式なサポート製品の投入ではなく、デモ専用システムによる検証です。実演できた範囲と、今後の開発が必要な範囲を分けながら内容を見ていきます。

RISC-Vサーバーで動作したROCm 10の構成

SiFiveの発表によると、両社は米国で開かれたAI Infra Summit 2026で、BigSky Datacenter Development Platform上のデモを披露しました。使用したソフトウェアはAMD ROCm 10、AIモデルはGemma4-E2Bです。

システム内の役割は明確に分かれています。SiFive Performance P870-Dを搭載するRISC-Vサーバーがヘッドノードとなり、Radeon AI PRO R9700が推論をオフロードされる構成です。

構成要素 デモでの役割
SiFive Performance P870-D OSやアプリケーションを動かすホストCPU
BigSky SF-2U870 RISC-Vソフトウェアの移植・調整・検証を行う開発サーバー
AMD Radeon AI PRO R9700 Gemma4-E2Bの推論処理を担当するGPU
AMD ROCm 10 GPUを利用するためのソフトウェア基盤

AIサーバーではGPUが行列演算を担う一方、CPUはジョブの制御、データの受け渡し、ストレージやネットワークの処理を進めます。今回の実演は、そのホスト側をRISC-Vへ置き換えたうえで、ROCmを介してAMD GPUへ処理を渡せた事例です。

BigSkyとP870-Dのハードウェア

BigSky SF-2U870は一般的な完成品サーバーとして大量導入する製品ではなく、ソフトウェア移植、ワークロード調整、システム検証に使う2U開発プラットフォームです。BigSkyの公式仕様では、次の構成が示されています。

  • 2.0GHzで動作するP870-Dを32コア搭載
  • 256GBのDDR5-5600メモリ
  • PCIe 5.0 x16を4系統、合計64レーン
  • 7.68TBのU.2 NVMe SSDを2台
  • 10/25Gb対応のOCP 3.0ネットワークインターフェース

4系統のPCIe 5.0 x16は、外付けアクセラレーターを接続して帯域を確保する構成に向きます。R9700を使った今回のデモも、BigSkyが想定する「RISC-V CPUでアクセラレーターを制御する」用途を具体化したものです。

P870-Dは64bit、6-wideのアウト・オブ・オーダー型RISC-Vコアで、RVA23プロファイルに準拠します。SiFiveはBigSkyを少量生産し、データセンター向けソフトウェアを実機で移植・検証できる環境として提供しています。完成したサービスをそのまま運用する機械より、次の製品やソフトウェアを準備するための土台という位置付けです。

AMDにとってのRISC-V対応の意味

ROCmはAMD GPU上でAIや高性能計算を動かすためのソフトウェアスタックです。AMDは2026年8月にROCm 10とROCm.AIの一般提供を発表し、開発ツール、ライブラリ、コンパイラー、対応モデルの拡充を進めています。

GPUの性能を利用するには、GPU本体だけでなく、ホストCPU側で動くドライバーやランタイム、フレームワークまで対象アーキテクチャへ移植しなければなりません。RISC-V上で生成AIモデルまで実行した今回のデモは、ROCmの構成要素を新しいホスト環境へ広げるための初期検証になります。

SiFiveはBigSky上でNVIDIA CUDAを動かす取り組みも公表済みです。ROCmの実演が加わったことで、同じRISC-V開発基盤から複数のGPU環境を検証する道が開きました。サーバー設計者にとっては、CPUの命令セットとGPUの供給元を固定の組み合わせだけで考えず、用途に合わせて構成を検討できる材料になります。

実証段階で残る確認項目

EE Times Asiaの報道も、今回の構成を量産向けシステムではなくデモ専用と整理しています。SiFiveとAMDは今後、処理速度の改善、対応するアクセラレーター用途の追加、より大きなモデルの実行を評価する方針です。

発表には推論速度、消費電力、x86やArmホストとの比較結果が含まれていません。現時点で確認できる成果は、Gemma4-E2Bを使った一連の推論処理がRISC-VホストとAMD GPUの組み合わせで動作したことです。性能や導入コストの優劣は、両社が今後公開するベンチマークとサポート条件を待つ必要があります。

実用化へ向けて注目したい項目は次の4点です。

  1. ROCmのどの機能とライブラリがRISC-Vホストで利用できるか
  2. 対応GPUとLinuxディストリビューションの範囲
  3. 長時間運用に必要なドライバーの安定性と管理機能
  4. x86・Arm構成と比べた推論性能、消費電力、総コスト

これらが明らかになれば、BigSkyでの成果が開発デモから実際のAI基盤へ進む距離を判断できます。

データセンターCPU市場への影響

RISC-Vは組み込み機器やアクセラレーターの制御コアで採用が広がってきました。BigSkyは32コアCPU、DDR5メモリ、PCIe 5.0、企業向けLinux環境をまとめ、データセンターのホストCPUとして検証できる形へ引き上げています。

今回の協業だけで、RISC-Vがx86やArmのサーバーCPUを直ちに置き換えるわけではありません。価値があるのは、主要なAIソフトウェア基盤を実機へ移植し、GPUを含むシステムとして試せるようになった点です。命令セットの選択肢は、対応するOS、開発ツール、ドライバー、運用ソフトウェアがそろって初めて製品選定の候補になります。

AMDにも、ROCmを自社のx86 CPUとGPUの組み合わせに閉じず、異なるホストCPUへ広げる利点があります。AIインフラではCPU、GPU、ネットワーク、ストレージを用途別に組み合わせるため、RISC-Vへの移植性を高めるほどROCm対応GPUを選べるシステムの範囲も広がります。

RISC-VとROCmの次の焦点

SiFiveとAMDのデモは、P870-Dが制御するBigSky上でROCm 10とGemma4-E2Bを動かし、Radeon AI PRO R9700へ推論をオフロードしました。RISC-VサーバーがAMD GPUのホストとして機能した点が今回の成果です。

次に見るべきなのは、対応範囲と性能の数値です。ROCmの正式なRISC-Vサポート条件、より大規模なモデル、複数GPU構成、継続運用の検証がそろえば、オープンなCPU命令セットとGPUソフトウェアを組み合わせる選択肢が現実味を増します。

AIサーバーでCPUが担う仕事をさらに知りたい方は、AMD EPYC 9006の電力指標とエージェントAI向けCPUの解説もあわせてご覧ください。