AWSは、独自設計CPU「Graviton5」を搭載するAmazon EC2 C9gおよびC9gdインスタンスの一般提供を開始しました。Graviton5世代では、前世代のGraviton4を搭載するC8g/C8gdと比べて、vCPU当たりのコンピューティング性能を最大25%高めたとしています。単なるクロック向上ではなく、DDR5-8800メモリ、5倍に拡大したL3キャッシュ、ネットワーク処理能力の強化、形式検証を利用したNitro Isolation Engineなど、クラウドCPUを取り巻くシステム全体が更新された点が重要です。
C9gとC9gdの違い
C9gはコンピューティング最適化インスタンスで、リアルタイム分析、バッチ処理、動画エンコード、科学技術計算、CPUベースの機械学習推論、広告配信など、CPU性能を継続的に使う処理を想定しています。C9gdは基本的な計算性能を共有しながら、ローカルNVMe SSDを追加した構成です。スクラッチ領域、キャッシュ、一時ファイル、低遅延のローカルストレージを必要とする処理ではC9gdが適しています。
ローカルNVMeは永続ストレージの代替ではありません。インスタンス停止や障害時の扱いを理解し、重要なデータはEBSやS3などへ保存する必要があります。一方で、再生成可能な中間データやキャッシュを置く用途では、ネットワークストレージへの往復を減らし、処理時間を短縮できます。
Graviton4比で最大25%向上
AWSはC9g/C9gdについて、Graviton4ベースのC8g/C8gdと比較して最大25%高いコンピューティング性能を示しています。さらにデータベースで最大30%、Webアプリケーションと機械学習で最大35%高速になると説明しています。これらはすべてのアプリケーションで保証される値ではなく、処理内容、コンパイラ、メモリアクセス、スレッド並列性によって差が変わります。
移行を検討する場合は、本番トラフィックに近いデータを使い、C8gとC9gを同じvCPU数だけでなく同じコスト条件でも比較することが大切です。処理時間が短くなれば、時間当たり料金が高くても総コストが下がる場合があります。逆にCPU利用率が低いサービスでは、世代更新の効果を十分に得られない可能性があります。
DDR5-8800と5倍のL3キャッシュ
Graviton5搭載インスタンスはDDR5-8800を採用し、AWSはクラウドのプロセッサインスタンスで最速のメモリと表現しています。メモリ帯域が広がると、分析、圧縮、動画処理、科学計算など、演算器へ大量のデータを供給する処理で効果が期待できます。
L3キャッシュは前世代比で5倍に拡大しました。CPUが必要とするデータをキャッシュ内に保持できれば、メインメモリへアクセスする回数を減らせます。データベースのホットデータ、コンパイル、分散処理の一部などでは、キャッシュ容量の増加がレイテンシとスループットの両方に影響します。ただし、ワーキングセットがキャッシュよりはるかに大きい処理では、メモリ帯域の方が重要になる場合があります。
Nitro Isolation Engine
C9g/C9gdは第6世代AWS Nitro Systemを採用し、Nitro Isolation Engineを搭載する最初のコンピューティング最適化インスタンスです。AWSによると、この仕組みは仮想マシン間の分離を強制し、メモリ、CPUレジスタ状態、I/Oへのアクセスを限定されたAPIで仲介します。
特徴は、設計の正しさを形式手法で検証している点です。形式検証は、想定した性質が数学的モデル上で維持されるかを確認する手法であり、通常のテストだけでは調べ切れない状態を検討できます。これによってすべてのセキュリティリスクが消えるわけではありませんが、クラウド基盤の分離設計を説明可能な形で強化する取り組みとして注目されます。
提供リージョンと移行方法
一般提供開始時点では、米国東部のバージニア北部とオハイオ、米国西部のオレゴン、欧州のフランクフルトで利用できます。購入形態はオンデマンド、Spot、Savings Plans、専有インスタンス、Dedicated Hostsに対応します。追加リージョンは順次展開される予定です。
x86環境からGravitonへ移行する場合、アプリケーションと依存ライブラリがArm64に対応しているか確認します。Java、Go、Node.js、Pythonなどの一般的な環境は対応が進んでいますが、ネイティブ拡張、古い商用ソフト、独自バイナリがある場合は再ビルドや代替が必要です。コンテナ環境ではマルチアーキテクチャイメージを用意し、段階的にトラフィックを切り替える方法が安全です。
まとめ
AWS Graviton5搭載のC9g/C9gdは、前世代比最大25%の計算性能向上だけでなく、DDR5-8800、5倍のL3キャッシュ、強化されたパケット処理、Nitro Isolation Engineを組み合わせた世代更新です。CPU負荷の高い分析、動画処理、科学計算、機械学習推論では有力な選択肢になります。一方、実際の費用対効果はアプリケーションのArm64対応と処理特性に左右されます。既存のC8gやx86インスタンスと実データで比較し、処理時間と総コストの両方から移行を判断することが重要です。
