スーパーコンピュータのCPUといえば、アメリカのAMDとIntel、そして日本の富士通あたりが定番でした。欧州には自前のHPC向けCPUがなかったのです。その穴を埋めるチップがようやく実験室で動き始めました。フランスのSiPearlが開発するRhea1です。長年の開発を経てラボでの検証段階に入り、2026年末の提供開始が見えてきました。本記事ではRhea1のスペックと現在地、そして欧州がなぜ自前のCPUにこだわるのかを解説します。読み終えれば、HPC市場の勢力図に加わる新顔の実力を判断できるはずです。

Rhea1の概要

Rhea1はSiPearlが欧州で設計したHPCおよびAI推論向けのCPUです。SiPearlは欧州のプロセッサ独立を目指すEuropean Processor Initiativeから生まれた企業で、Rhea1は欧州で設計された中で最も複雑なCPUだとうたわれています。欧州初のエクサ級スーパーコンピュータ計画JUPITERに向けて開発が進められてきました。設計は欧州、製造は台湾TSMCの6nmプロセスという分担です。設計と製造を分けるこの形は、ファブレスのAMDやAppleと同じ組み立てになります。工場を持たないぶん、設計人材さえ確保できれば参入できる形ともいえます。

スペックの詳細

公表されている主な仕様は次の通りです。

項目 内容
CPUコア Arm Neoverse V1 × 80コア
ベクトル演算 256bit SVE × 2ユニット/コア
メモリ HBM 4スタック + DDR5 4インターフェース(2DPC対応)
I/O PCIe Gen5 × 104レーン
製造プロセス TSMC 6nm

特徴はメモリ構成にあります。広帯域のHBMと大容量のDDR5を1チップで併用でき、帯域勝負のシミュレーションと容量勝負のデータ処理を両にらみできる設計です。この構成は富士通のA64FXやIntelのXeon Maxを思わせますが、DDR5側を2DPCまで許す点は容量重視の運用に寄せています。80コアという数は現行x86サーバーCPUの最上位に比べれば控えめで、Neoverse V1というコア世代も最新ではありません。長い開発期間がコア設計の古さとして表れている面はあり、絶対性能よりメモリ構成の独自性と欧州設計であることで勝負するチップです。

ラボ検証という節目

SiPearlはRhea1の実チップをラボに持ち込み、動作検証を進めている段階です。数週間以内のサンプル出荷を見込み、同社幹部は2026年末の提供開始を予定していると語っています。Tom’s Hardwareが長らく待たれたチップと表現する通り、当初計画からの遅れは繰り返し指摘されてきました。それでもシリコンが実際に動き始めたことで、ようやく出口が見えた形です。

欧州の技術主権という背景

欧州がRhea1にこだわる理由は性能だけではありません。SiPearlはこのチップを、安全保障、防衛、医療研究、エネルギー、気候、エンジニアリングといった戦略分野を支える主権的なハードウェアと位置づけています。バックドアやキルスイッチがないことも公式に強調されており、外国製チップへの依存をリスクとみなす欧州の姿勢がにじみます。半導体の自前化という点では、日本のRapidusと重なる動きです。EUは域内での半導体の設計と製造の両輪を強化する方針を掲げており、Rhea1はその設計側の旗艦にあたります。製造はTSMC頼みという弱点が残るものの、設計図を自分たちの手に持つことがまず第一歩という割り切りでしょう。

よくある質問

いつ手に入る?

SiPearlの幹部は2026年末の提供開始を予定していると語っています。数週間以内にサンプル出荷が始まる段階なので、そこから半年ほどの検証期間を挟む計算です。

誰が使う?

主な行き先は欧州の公的スーパーコンピュータや研究機関です。検証や自社ソフトの移植を進めたい組織向けには、1ソケットと2ソケット構成のリファレンスサーバーSeineが用意されます。採用が明言されているJUPITER以外に商用顧客をどれだけ取れるかが、次の試金石になります。

性能は競合に届く?

独立系のベンチマークはまだありません。公表スペックから期待できるのは、HBM由来のメモリ帯域が効くシミュレーション系の処理です。まずは実測値の公開を待ちましょう。

まとめ

SiPearlのRhea1は、Arm Neoverse V1を80コア、HBMとDDR5の併用という欧州初のHPC向け自社設計CPUで、ラボ検証を経て2026年末の提供開始を目指す段階に入りました。ArmベースのサーバーCPUは、Arm自身のAGIやNVIDIAのVeraなど今年に入って一気に増えています。勢力図の変化は関連記事でも追いかけているので、あわせてどうぞ。