Armは30年以上、設計図を売る会社でした。チップそのものは作らない。この一線を守ってきたからこそ、AppleもQualcommもNVIDIAも安心してArmの設計をライセンスできたわけです。その一線をArm自身が越えました。初の自社設計サーバーCPU「AGI」を発表し、COMPUTEX 2026ではASRock Rackが搭載サーバーの実機を展示。本記事ではAGIのスペックと狙い、ASRock Rackの1Uサーバーの中身、そしてMetaやOpenAIが名を連ねる顧客リストの意味を解説します。

Arm AGIというCPU

Armの公式発表によると、AGIはArmにとって初の量産シリコン製品であり、初のArm自社設計データセンターCPUです。ターゲットは名前の通りエージェントAIのインフラ。常時稼働するAIエージェントは大量のトークン処理とCPU側の制御処理を発生させるため、そこに最適化したCPUを自ら作るという理屈です。開発はMetaが共同開発パートナーの筆頭に立ち、TSMCの3nmプロセスで製造されます。

スペックの概要

公表されている主な数字を並べます。

  • CPUコア: Arm Neoverse V3 × 最大136コア
  • 最大クロック: 3.7GHz
  • TDP: 300W
  • メモリ帯域: コアあたり6GB/s、レイテンシ100ns未満
  • 実装密度: 空冷1Uラックで8,160コア、液冷ラックなら45,000コア超

Armはラックあたりの性能をx86の2倍以上と主張し、1GWあたり最大100億ドルの設備投資削減につながるとまで言っています。もちろんベンダー自身の数字なので、第三者の検証を待ちたいところです。

ASRock Rackの1Uサーバー

COMPUTEX 2026の会場でServeTheHomeが確認したのが、ASRock Rackの1U4E1S-ARMです。1Uシングルソケットの構成で、仕様は次の通りでした。

項目 内容
CPU Arm AGI(136コア、300W)
メモリ DDR5-8800 × 12チャネル(1DPC)
拡張 PCIe Gen6 計96レーン、CXL 3.0対応
スロット Gen6 x16 フルサイズ + x16/x8 ロープロ + OCP NIC 3.0
ストレージ E1.Sホットスワップ × 4、M.2 × 2
電源 800W 80 PLUS Titanium × 2(冗長)

DDR5-8800の12チャネルにPCIe Gen6と、I/O周りは現行x86サーバーの一歩先を行く構成です。市販時期の詳細はまだ限られており、TSMCでの生産の立ち上がり次第とされています。空冷1Uラックで8,160コアというArmの数字は、この手の1Uサーバーを60台積んだ場合に相当します。電源が800Wの2本で済むのも、300WのCPU1基という構成ならではです。

MetaとOpenAIが並ぶ顧客リスト

発表に並んだ名前は豪華です。共同開発のMetaに加え、顧客としてOpenAI、Cloudflare、SAP、SK Telecom、Cerebrasなど。OEMはASRock Rackのほか、Lenovo、Quanta、Supermicroが名乗りを上げ、エコシステム支援にはAWS、Google、Microsoft、NVIDIA、Samsung、TSMCを含む50社超が並びました。初物のCPUにこれだけの顔ぶれがそろうのは、Armの設計資産と長年の関係あってこそでしょう。早期システムはすでに提供中で、広い展開は2026年後半の予定です。初物にありがちな様子見の期間を、顔ぶれの豪華さで短縮しに来ています。

ライセンス企業から製造企業へ

見逃せないのは、この製品がArmのビジネスモデルを変える点です。設計図を売る側から、顧客と同じ土俵でチップを売る側へ。NVIDIAのVeraやQualcommのC1000など、ArmのIPを使ってサーバーCPUを作る企業とは、今後部分的に競合します。ライセンス収入と自社製品のバランスをどう取るのか、AGIの売れ行きとあわせて業界全体が注視する話になりそうです。もっとも、販売はASRock RackのようなOEM経由の形を取っており、ライセンス顧客と正面から競り合わない売り方を選んだとも読めます。

まとめ

Arm初の自社設計CPU「AGI」は、Neoverse V3を最大136コア束ねたエージェントAI向けサーバーチップで、ASRock Rackの1Uサーバーとして早くも実機が動いています。ArmベースのサーバーCPUを巡っては、NVIDIAのVeraや欧州SiPearlのRhea1も動きが活発です。勢力図の全体像は関連記事でつかんでください。実機が展示会で動いているという事実そのものが、何よりの進捗報告です。