「欧州のスーパーコンピューターJUPITERで、独自CPUがもう稼働したのか」。SiPearlとBullの9月22日付発表を読むと、現在の到達点はRhea1の最初のサンプルをBullへ納入し、サーバーへの統合を始めた段階です。性能の確定値や、JUPITERのRhea1搭載クラスタが本格運用を始めたという発表ではありません。何が進み、今後どの発表を待つべきかを、メーカーと運用機関の資料から整理します。

最初のサンプル納入と統合作業

SiPearlは2026年9月22日、HPC向けCPU「Rhea1」の最初のサンプルを、サーバーメーカーのBullへ納入したと発表しました。BullはJUPITER向けのBullSequana XH3000プラットフォームで統合作業を開始しています。オランダの専門メディアTweakersも、納入と統合開始を報じています

納入先がBullである点が、今回のニュースの核心です。設計会社のラボでCPU単体を動かす段階から、実際の計算機を作るメーカーへ現物を渡す段階に進みました。SiPearlは2026年5月にRhea1の電源投入を公表していましたが、今回はJUPITERに採用されるサーバーへ組み込む作業が始まったという新しい出来事です。

発表には、Rhea1を搭載した計算ノードの稼働開始日や、ユーザー向けの利用開始日は記されていません。SiPearlは社内でベンチマークを続けており、性能の詳細を2026年秋に公表する予定としています。現時点で具体的な性能倍率を示して比較する材料はありません。

Rhea1のCPUとメモリ構成

SiPearlの製品資料によると、Rhea1はスーパーコンピューターやAI向けのCPUです。主要な構成は次のとおりです。

項目 公表された構成
CPUコア Arm Neoverse V1を80コア
ベクトル演算 各コアに256ビットのSVEユニットを2基
パッケージ内メモリ HBMを4スタック
外部メモリ DDR5インターフェースを4系統
拡張I/O PCIe Gen5を104レーン

Rhea1は多くのCPUコアに加え、広いメモリ帯域を狙うHBMをCPUパッケージ内に備えます。HBMはデータを大量に読み書きする計算で役立つ設計です。たとえば科学技術計算では、計算器の処理能力だけを増やしても、必要なデータがメモリから届かなければ待ち時間が生じます。Rhea1はコアとメモリを組み合わせ、その種の処理に向けて作られています。

一方、上の表は製品設計の公表値です。JUPITER上でのアプリケーション速度を示す実測結果ではありません。システムに組み込んだ後の性能は、計算ノードの構成やソフトウェア側の対応を含む結果として確認する必要があります。

JUPITERのBoosterとCluster

ドイツのユーリヒ総合研究機構が公開するJUPITERの技術概要では、システムを大きくBoosterClusterの二つの計算モジュールに分けています。BoosterはNVIDIA Grace Hopperを用いるGPU主体の部分です。Rhea1が入るのは、汎用的な計算や大量のデータを扱う処理を担うCluster側になります。

ClusterにはRhea1だけを並べる計画ではありません。運用機関の構成資料には、AMD EPYCを使うノードとRhea1を使うノードの両方が載っています。Rhea1側は162ノード、各ノードにCPUを2基という構成予定です。同資料はRhea1ノードを「後日設置」と記しており、今回のサンプル納入をクラスタ全体の設置完了と読み替えることはできません。

GPUが得意な大規模な並列演算と、CPUや広帯域メモリが役立つ複雑な処理を、同じ大型計算機で使い分ける設計です。Rhea1を搭載するClusterの役割が分かると、CPUサンプル納入がJUPITER全体の完成報告とは別の進捗であることも見えてきます。

今後の確認点

今後の節目は、BullSequana XH3000への統合、Rhea1搭載ノードの設置、そして運用機関による利用開始の案内です。SiPearlが予告する性能データも、測定条件とともに確認したい情報になります。現時点のメーカー発表にある「期待を上回る場合がある」という説明は、詳細な測定結果を伴わない途中報告です。

SiPearlは発表資料で、JUPITER向け供給をRhea1の最初の受注と位置付けています。CPUを設計して動かす段階から、顧客のシステムへ届ける段階に入ったことは、製品化の進捗として具体的です。CPUクラスタの処理能力や、他のサーバーCPUとの性能差は、統合後の公開データで評価するのが自然でしょう。

まとめ

SiPearlはRhea1の最初のサンプルをBullへ納入し、JUPITER向けサーバーでの統合を始めました。80コアとHBMを備えた欧州設計CPUが、計画上の採用から実機への組み込みへ進んだニュースです。次はClusterノードの設置状況と、SiPearlが予告した性能データを確認しましょう。

Rhea1の開発経緯は以前のラボ稼働の記事で追えます。別の高コア数CPUがAIのメモリ構成にどう使われるかを知りたい方は、Threadripper PRO 9995WXのAI推論構成もご覧ください。